第16回 エリアマネジメント

  最近、街づくり事業において「エリアマネジメント」という言葉をよく耳にします。多分、平成22年に、国土交通省が「エリアマネジメント支援事業」(正式名称は都市環境改善支援事業)という補助事業を創設したからだと思います。
 国土交通省土地・水資源局のパンフレットによると、エリアマネジメントとは、「地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための住民・事業主・地権者等による主体的な取り組み」です。具体的には、これからの街づくりは「つくる」だけでなく地域住民等が自らの手で「育てる」ことが重要であるとして、例えば、街並みの形成と維持、公園や道路等の美化活動、空き店舗を利用した交流施設の整備と運営、あるいは住民の交流活動等に住民・事業主・地権者等(以下、地域住民等という)が主体的に取り組んでいる事例があげられています。また、こうした取り組みが重要になった背景として、@自分たちの力で地域を変えていこうとする気運が高まりつつある A新しい開発が抑制される中、既存ストックの有効活用、開発したものの維持管理・運営の必要性が高まっている B地域を持続させていくためには地域の魅力づくりが重要であり、そうした魅力が高まることによって地域の資産価値の維持・向上が期待されるようになってきた ことがあげられています。
 私は、この街づくり講座の第6回と第7回で次のように述べました。「地価は上がり続けるという土地神話は崩れた。また、これからは人口減少のため街はスカスカになり廃れる街も出てくる。そうした中で、マイホームという大切な資産の価値を守るには、自分の住む街を自分たちの手で魅力的にしていかなければならない」と。
 ほぼエリアマネジメントと同じことを言っているのですが、私の方は「つくる」に重点を置いているのに対し、エリアマネジメントは「育てる」に重点が置かれています。もともと、国のエリアマネジメント制度が、これまでは手薄であった街の維持管理に対する補助制度として創設されたものですから、そうなるのは当然です。ただ、昨今の重点施策となっている都市再生事業でも「育てる」が主になっていますが、折角、街をリニューアルするわけですから、「つくる」にもエリアマネジメントの考え方を取り入れてほしいと思います。何度も言いますが、人口や財政が右肩下がりになる縮小化社会では、地域と地域は互いに競争関係に置かれ、人あるいは企業は、より魅力のある地域に流れるようになります。従って、街づくりの現場では、常に他地域をライバルとみなし、他よりも魅力のある街としなければなりません。その第一歩が「つくる」です。ここで間違えれば「育てる」でいくら努力しても挽回できないでしょう。
 ところが、自治体の街づくり現場では、最初から「育てる」のエリアマネジメントに力点が置かれ、他地域に勝てる街づくりとしての「つくる」のエリアマネジメントがおろそかになりがちです。それは、自治体では各地域を平等に扱うことが原則とされ、地域を差別化することなど論外だからです。しかし、これからは、そんな甘い考えで街づくりを行えば後発の街づくりに負けてしまうことは必至です。結局は、期待したような街にはならないでしょう。もちろん、自治体の街づくりでも、魅力的な街づくりを目指して、きらびやかなコンセプトが掲げられてはいます。しかし、これも、この講座の第12回で紹介した、私の尊敬する建築家の「言葉だけのコンセプトなど、同じ言葉で全く違う絵が幾通りも描けるので無意味です」という指摘のように、差別化したことにはなりません。やはり、第12回でも述べたように、差別化のポイントは街並みづくりですが、実は、どんな街並みなら差別化できるかの判断には、極めて専門的であるとともに、将来を見越した見識が必要となります。つまり、誰でもができるわけではなく、専門家の助けが不可欠です。
 前回の「街づくりとPFI」で、これからの街づくりでは、事業費を確実に回収しようと思えば民間主導で行う必要があると言いましたが、これは、民間なら、どのような街並みにすれば住宅や企業用地が売れるかを知っているからです。言い換えると、民間は「つくる」エリアマネジメントのノウハウを持っているということです。ただし、ここでも、住民主体と民間主導をどのように調整するかが課題になると言いました。今回、エリアマネジメントの制度を考えてみて、これからの街づくりでは、住民が、それらを専門家や民間にどれだけ委ねられるかが成否の分かれ目になることを強く思いました。