第15回 街づくりとPFI

 PFIとはPrivate Finance Initiative の略で、直訳すると「民間資金主導」となりますが、要するに、民間の資金やノウハウを活用して公共事業を行う手法のことです。もともとは、1990年代初頭のイギリスのメイジャー政権が、前のサッチャー政権が打ち出した小さな政府の考え方を引き継いで考え出したもので、これを活用して大きな成果を上げたことから、たちまち世界各国に広まりました。
  日本でも1999年にPFI法が制定され、これに基づいて全国各地で病院、市民ホール、図書館、体育館、あるいは刑務所など、様々な公共施設の整備が行われましたが、結局は、自治体が分割払いしているだけだとか、破綻すれば自治体に大きなリスクが及ぶとか、評判の良くない話が絶えません。もっとも、ここで私は、そのことについて論評するつもりはありませんし、もとより、そんな知識も持ち合わせていません。 ところが、去年あたりから、私の業務分野である街づくりにPFIが導入されるケースが出始めて来たのですが、そんな中、こんなPFIはおかしいのではないか、また街づくりの進め方としてもおかしいのではないかという事例に立て続けに遭遇しました。
  その一つは、あらかじめ土地区画整理事業の設計図が与えられ、その工事及び工事完了後の施設管理をPFI事業とした案件です。提案の主たる要求項目は、低炭素化に向けてのアイデアとエリアマネジメントでしたが、設計図が固まっていたので工事費も決まってしまうのですが、その工事費だけで見積上限額にほぼ達してしまい、とても要求項目を真剣に実行する経費は残りません。おまけに、見積った経費は、最終的には自治体が分割で払ってくれるということですから、素人の私でも、そもそも何を目的として、このPFI事業が企画されたのか理解に苦しむものでした。私もそうでしたが、PFIと言われてまず思い浮かべるのが民間資金の活用です。しかし、良く考えて見ると、民間資金とは通常は銀行融資のことですから、地方債より利子は高いはずです。この点については、PFIを使って都市施設整備を推進している団体の人から聞いた話ですが、ある大都市の市長さんに「PFIより市債の方が利息がずっと安い」と言下に断られたそうです。これは、その通りだと思います。
 では、民間資金の活用でないとすれば、PFIのねらいはどこにあるのでしょうか?そこで、たまたま私の友人が日本のPFIの草分けであることから、そうした素朴な質問を投げかけてみると、彼が言うには、一番重要なことは、民間が持っている豊富なアイデアやノウハウを活用することだそうです。例えば、彼は土木技術者なので治水を例に説明してくれたのですが、「ある都市の水害を防ぐ方法を考えた場合、ダム建設、河川改修、下水道整備、ポンプの補強、地下河川の整備など、様々な手段が考えられるが、その組み合わせまで考えると無数の方法が存在する。これを民間企業に自由に考えてもらえれば、組合せとアイデアによっては事業費に倍以上の開きが出ることもあり得る。そういう提案募集をすることがPFIの真髄だ。」ということでした。(もっとも、現状では縦割り行政が障害となって、そんな募集は簡単にできませんが・・・)それで、先のPFI案件に対して抱いた疑問が解けたのですが、そもそも、PFI事業の対象がすでに設計まで完了していることがおかしいのです。特に、先の案件は新たなセンター地区をつくるというものでしたから、実際に、どこにどんな施設を配置するかというプランを、経験豊富な民間に自由に提案してもらう必要があります。ところが、すでにゾーニングが決まっているわけですから、当然、民間のプランは制限されてしまいます。もっとも、その案件では、すでに行政が大型商業施設の立地を決めていたことから、そうした民間の自由なアイデアを募集するつもりはないと思われました。すなわち、行政は、新たな街づくりの可能性を自ら制限してしまっているのです。
  もう一つの事例はPFI事業ではなかったのですが、民間の提案を募集する前に土地区画整理事業の設計図が固まってしまうという点は同じでした。そこも、単なる住宅地ではなく、都市の新たなセンターにしたいという地区でしたが、そのためには核となる民間の施設を誘致する必要があることを行政も明確に認識していました。それにもかかわらず、そうした施設の提案を募る前に、土地区画整理事業を専門とする建設コンサルタントに街づくりの基本設計が発注されてしまいました。もっとも、その設計業務の中に、誘致施設の検討と提案が含まれてはいます。しかし、私もその業界の一員なのでわかるのですが、建設コンサルタントが検討・提案するレベルは単なるアイデアの提示にしか過ぎず、実現性の保証は全くありません。もし、本気で民間施設を誘致しようと思えば、その検討は、業種はもちろん誘致企業も特定したものとなり、あわせてシビアな収支計算も必要になりますから、とても建設コンサルタントの手に負えるものではありません。しかも、そうした本気の提案というものは、われわれ建設コンサルタントのようにA案B案C案と何案も出せるものではなく、これと決めた1案しか出せません。従って、もし、いくつかの比較案が欲しいなら、数社に声を掛けて提案を募集する必要があります。要は、民間から提案を募集する手立てこそが重要なのです。
  一方、人口も都市も財政も全てが縮小化に向っている、これからの街づくりでは、特に土地区画整理事業のような市街地整備は、従来のように宅地を造成してから売り出すというやり方ではリスクが大きく、必然的に、計画の段階で売却の目途が立っているという事業手法が求められるはずです。つまり、土地区画整理事業は地権者から一定の割合で提供された保留地を売却して事業費を回収しますが、昨今は保留地が売れずに、その肩代わりを自治体が行うケースが後を絶ちません。そうしたリスクを避けるには、最初からマーケティングのノウハウを持った民間に事業を任せるしかありません。逆に言えば、民間が「完売できる」と判断すれば事業費も民間が負担できるわけですから、そこで民間資金の活用、すなわちPFI事業が成り立つのです。従って、このことからも街づくりをPFI事業で進める場合は、まずは街づくり事業の全てを民間に任せる必要があることがわかります。
  ところで、私が、この街づくり講座を始めたきっかけは、街づくりは住民主体で進める段階に来ているという認識からでした。しかし、現状は、まだ特殊事例に留まっており、普及には程遠い状況にあります。そうした中で、上記のように、これからの街づくりは民間に任せる必要があるという新しい課題も見つかりました。住民主体と民間主導をどのように調整していくのか、また、新たな課題を突き付けられた気がします。