第13回 街並みづくりと専門家(その2)

 では、前回で説明したような、デザインコードや街並み保存の対象にはなり難い、普通の住宅街で、美しい街並みをつくるにはどうすれば良いのでしょうか。その一つの方法が第6回で紹介した、街路樹を育てることです。阪急京都線の西向日という駅の東側に、幅員6メートルそこそこの区画道路に立派な桜並木が植わる美しい住宅街があります。グーグルのストリートビューで見られます。これなら建物の様式がバラバラでも桜並木に隠れて気になりません。同じ回で、街路樹を大きく育てることが地価の下落を防ぐと説明しましたが、実際、その一画は人気が高く、その分、地価も高いと言われています。
 ついでに、やはり前回で事例として挙げた千葉市の幕張ベイタウンを見てください。ちょっと潤いに欠けるような気がします。しかし、新しい時は皆そうだと思います。問題は、古くなった時に風格が出るかどうかですが、これは私のような街並み景観の素人には判断できません。ただ、街路樹がまだ十分に育っていないこともあると思いますので、あと20年もすれば緑豊かな落ち着いた街並みになるでしょう。街並みづくりとは、それほど先を見越して取り組まねばならないことですから、繰り返しになりますが、今時点での良し悪しや常識で判断するのは禁物です。だから専門家の助けが必要なのです。
 街路樹については、かつて、私も専門家に聞いて良かったという経験があります。京都市の御池通シンボルロードの計画に携わっていた時、地下鉄工事のため別の場所で保管されていたケヤキの街路樹を元に戻すのか、それとも、同じ頃に整備中であった国鉄貨物ヤード跡の市民公園に活用するのか、という問題が持ち上がりました。なにが問題だったかと言いますと、一つは、ケヤキを預かってもらうのに1本年間数十万円かかるが御池通に戻すのはまだ数年先になるので、それまでの費用がかさむこと。もう一つは、地下鉄工事でケヤキの伐採に反対する運動が起り、これに対して、一時的に移植して元に戻すと約束をしていたことです。
 とりあえず専門家(ケヤキを預かってもらっている老舗の植木屋さん)の意見を聞いてみようということで樹園にうかがうと、「これまで何十年も過酷な環境にいたから大分弱ってましたけど、環境の良いところへ来て大事にしてますから、見違えるほど元気になってますやろ。これを、もう一度あの環境に戻すと耐えられない木がかなり出てくるのではないかと心配です」という話をされました。また、「もともとケヤキというのは竹ぼうきを立てたような形をしているのですが、御池通は地面が堅いので(締まった砂礫層)、根が下でなく横に伸び、それに合わせて枝も横に広がった変な形になってますやろ」とも言われました。私たち素人は、御池通のケヤキは枝が大きく広がった立派な木だと思っていましたが、専門家は可哀想な木と見ていたようです。結局、木が生き物であることを再認識し、「長年苦労をかけたケヤキには良い環境に移ってもらうことを市民にキッチリと説明しよう」ということで、シンボルロードには新たな若木を植えることになりました。(ただし、特に元気なものは元のケヤキの代表として交差点部に戻っています)。今は、地下鉄工事の掘削後に埋め戻した柔らかな地面なので、ケヤキも本来の真直ぐな形に育ちつつあります。ただ、もともとケヤキは関東の木であり、関西は常緑広葉樹の景観を大事にすべきという専門家が少なくないということも、このときに学習しました。
 このように、街路樹だけでも専門家に教えてもらわねばならないことが沢山あります。また、最終的には、どの木が美しいかという価値観の問題になりますから、その共有も必要です。街並みづくりを住民主体で進めるには、専門家の助けと十分な学習時間が必要であることを理解していただけたでしょうか。