第12回 街並みづくりと専門家

 都市施設づくりについては、曲がりなりにも、その進め方について説明してきましたが、街並みづくりは、そもそも街の性格や形が千差万別ですから一般的に論じるのは難しいと思われます。そこで、前回、街並みづくりでは専門家の手助けが必要と言いましたので、この分野で、私が参考にさせてもらった専門家の話をします。
 まずは、街並みづくり(あるいは街づくり)のコンセプトについてですが、ある住民主体の検討会にアドバイザーとして参加していた時、同じアドバイザーであった、私の尊敬する建築家が、「水と緑にふれあう街、といった程度のコンセプトなら無意味ですよ。同じ言葉で全く違った設計が幾通りもできますから」と言われました。まさに、設計の専門家ならではの言葉ですが、第1回で説明したように、「街づくり」と「まちづくり」を区別して、「街づくりは形としての街をつくること」だとすれば、形をイメージしていないコンセプトは何の役にも立たないのです。
 その点、古い街並みを残す場合は、「宿場町」「城下町」「昭和の街」と言うだけで街の形がイメージできるから楽です。こうした街並みの魅力は、個々の建物の機能や美しさよりも、全体としての秩序や組み合わせの妙にあります。街並み保存及びそれによる地域おこしの先駆けとなった長野県の妻籠宿を見ても(グーグルでスナップ写真が見られる)、個々の建物も魅力的ですが、一定様式の建物が少しずつ変化しながら連なることで、より一層大きな魅力を発揮していることがわかります。これに対して、現代日本の街並みは、機能的には魅力があっても、建物の高さや構造、デザイン、全てがバラバラなので景観的には魅力が感じられません。それは、日本では、伝統的建築(木の柱と梁と土壁で出来た建物)と現代の建築(ビルやプレハブ住宅など)の構造が全く異なるために伝統的様式が継承されず、その結果、各人が好き勝手に建物を建てるようになったからだと思います。
 こうした、景観面で混乱する日本の街並みに秩序をもたらそうとしたのが前回でふれた、千葉市幕張ベイタウンの集合住宅街です。グーグルのストリートビューで見ると、ヨーロッパの街並みに似ていますが、とくに「ヨーロッパの街並み」をコンセプトにしているわけではありません。ここでは専門家の指導により、デザインコードと呼ばれる設計指針が設けられました。例えば、建物は道路に面してロの字型に連ねる、道路側には居室の窓を付ける、一つの道路に面して複数のデザイナーが設計する、といったことです。(個々の設計案を検討するための組織もある)その結果、個々の建物はデザイナーが異なって変化があるにもかかわらず、全体として秩序がある美しい街並みとなったのです。
 一方、専門家が、直接、街並みをデザインした事例としては、彦根市のキャッスルロードがあります。彦根城下の本町通りを都市計画道路として整備する際に住民と行政が対立しましたが、設計を委託された地元の建築家が、住民と話し合う中で、城下町の街並みを再現することを提案して実現したものです。(グーグルでスナップ写真が見られる)十数年前に、その建築家にお会いしたことがあります。「住民主体の街づくり」というような言葉も無かった時代ですが、条件が同じなら行政が考えても住民が考えても同じ結論になると教えてもらったのは、その方からです。
 また、妻籠宿の街並み保存を先導されていた県文化財保護課の方には四十年以上も昔にお会いしましたが、住民に対して、妻籠の街並みがどれだけ貴重なものか、その保存こそが地域の生きる道となる、今やらなければ将来きっと後悔する、といった説得を一人で続けておられました。
 いずれも強烈な個性を持った方ですが、将来を見越した見識とそれに対するゆるぎない自信に、本当の専門家の凄さを知りました。