第10回 駅前広場づくりに見る住民主体の意義

 駅前広場は、道路とともに街づくりにとって重要な施設ですが、計画に対する住民の反発に関しては、むしろ道路よりも厄介な一面を持っています。
 たいていの場合、こうした反発は駅前広場の用地にかかる人達から始まります。もともと駅前の一番便利な所に住んでいるのですから、そこから移転してくれと言われれば反発するのも当然です。そうした時に住民から真っ先に出る質問が、「なぜ、駅前広場が必要なのか?」ということです。行政は、たいてい「鉄道との乗り継ぎを便利にするため」と答えます。すると、住民からは、「今でも十分に便利です。」と反論があがります。
 もちろん、このやり取りには誰が便利になるのかについての行き違いがあることにお気付きだと思います。行政の担当者も気付いているのですが、とても、「いえ、皆さんではなく、一般市民が便利になるのです。」とは言えません。おそらく住民の方も、内心は、そういう意味だなと気付いておられると思いますが、「他の人達が便利になるため、自分たちは便利なところから移転させられる」ということほど理不尽な話はないですから、簡単には議論に乗れないのでしょう。
 まさに、こういう時こそコーディネーターの出番ですが、この理不尽な話が出てきた理由を分かり易く説明できなければ、住民のやり場のない怒りに油を注ぐことになります。
 もちろん、そこには大きな社会的意義があります。それは、駅前広場が、鉄道の有する大きな輸送力を十二分に発揮させるために必要不可欠な施設だからです。
 前回、路面電車や路線バスが通る幹線道路まで歩く距離を最大で500メートルとしましたが、これは路面電車や路線バスの誘致圏が半径500メートルだからです。これに対して鉄道の輸送能力は、路面電車の10倍以上(乗車定員で比較)もあるため、単純に比例させると誘致圏も半径1.6キロメートル以上に広がります。また、鉄道は簡単には新設できませんので地域によっては2〜5キロメートルもの誘致圏を有しているところもあります。当然、これだけの圏域を徒歩だけでカバーするのは無理ですから、駅には様々な交通機関が集まることになり、それらをさばくために駅前広場が必要となるわけです。つまり、鉄道は、駅前広場で他の交通機関と円滑に接続されることによって、はじめて公共交通機関の主軸としての役割が果たせるのです。
 従って、駅前広場の用地にかかる人達には、「鉄道という貴重な公共交通機関を、駅周辺の人達だけでなく、出来るだけ多くの人達が利用できるように、ご協力ください。」とお願いするしかありません。もちろん、こうした説明でも移転させられる人達の理不尽さは解消できないでしょうが、少なくとも、行政や一般市民が「無理なお願いをしている」ことを認識できるという意義はあります。
 もともと、街づくり事業を実現させるためには、誰かに無理なお願いを聞いてもらわねばならないのです。それを、これまでは、移転補償というお金によって聞いてもらっていました。また、一般市民は、誰かに無理を聞いてもらっているということを知らずにいました。しかし、どう考えても、街づくりに協力する人がその恩恵にあずかれないというのはおかしな話です。やはり、どこかへ移転してもらうのではなく、便利になったその街に住んでもらうのが筋というものです。
 そのためには、単に道路や駅前広場といった都市施設だけを整備するのではなく、周辺宅地も再開発するといった、本当の意味での街づくりを行う必要があります。
 といっても、必ずしも公共事業としての再開発や区画整理をやれ、ということではありません。道路や駅前広場にかかる人と、新たな道路や駅前広場に面する人が共同で店舗付きマンションを建てたり、また、移転する人が共同で近くの空き地を購入して住宅を建てるだけでも実現するはずです。ただし、それには、新たな道路や駅前広場に面する人や空き地の所有者、そして移転する人が、ともに街づくりに対して夢を持つことが不可欠です。そういう意味でも、街づくりを住民主体で進めることが重要だと考えます。